開業税理士なら誰でも陥りがちな戦略ミスがあります。その一つは、個人の税理士事務所で必要以上に大きくしてしまうということです。税理士事務所は大手もしくは中堅を除いて大きくしすぎない方がいいのです。
独立したての時は、いつか自分の事務所を10人規模にしてやろうとか、30人くらいまでならいけるかなとか、結構目標を高く掲げるのが普通の人だと思います。目標を高く掲げるのは、自分の目線が高いということでもあるし、目標が高めの方が自分に負荷がかかるので、独立後の成長が速くなり、良いことではあると思います。
問題は、税理士業の場合、もしかしたら弁護士などの他の士業も同じような性質があると思うのですが、スケールすることによるメリットが、よくよく考えると「利用する側」から見てあまりないのです。税理士は一人一人お客様に対して、個別の状況を見て、サービスを提供します。つまりお客様も税理士を選ぶ際に、この税理士はどういうところが強いのかなど、いろいろ個性を見て選んでいるということです。一人一人の税理士が見れる件数には限界があるため、お客様の数が増えるとその分だけ人数を増やしていく必要があります。
ここがスケールしようとしている当人からは結構見落としがちな所なのですが、人数が増えていくと、それに伴い、事務所の個性が減っていきます。良い意味での偏りがなくなっていくのです。
税理士も、たくさんの競合相手がいる市場で競争しています。特徴とか売りがないと価格競争に巻き込まれてしまいます。価格競争に巻き込まれると、忙しいばかりで儲からないという状況に陥ってしまいます。
スタッフが増えると、その人達のお給料を稼がなくてはいけなくなるので、仕事を見つけて来なくてはならなくなります。10人分のお給料というのは、かなりの重圧です。本人が無意識だったとしても、やはり仕事をとって来なくてはというプレッシャーになっている事が多いと思います。
本来は自分の増えた仕事を手伝ってもらって楽にするために人を増やしたのに、逆にその人達の仕事を維持するために、特に尖っていない普通の仕事を受けるという悪循環になってしまいます。例えば、値段がそれほど良くなくても、帳簿の出来があまり良くない仕事も断りきれずに受けてしまったりした経験は皆さんはないでしょうか。
私の事務所の例ですが、最近まで結構何でも来る仕事は受けてきました。そしてその仕事をきちんと回すために人を増やしてきました。それで、この数年は忙しすぎて週末もずっと仕事をしていたり、手が回りきらなかったりで自分が苦しい状況になって苦しい状況になっていました。ミスもありました。
根本の所には、事業は成長しなくてはいけない、事務所を拡大しなくてはいけないという自分の中で一つの思い込みが原因になっていたと思います。
この問題の一つの解答ですが、誰もが考える100メートル走(例えがわかりづらければ、ピアノやバイオリンとか人気のある楽器)で一番を目指すのではなくて、あくまで、自分にとって勝ち目のある、例えば400メートルハードル走(この場合は、ボンゴとか?失礼!)のような他の種目に重点をピボットして(これを見つけるのが一番大変で、目を皿のようにして世の中や身の回りを見ていなくてはならないと思うのですが)、自分の向き不向を活かした利益率の高い仕事を適正サイズでやるのが良いのではないかと思いました。