日経新聞などの毎日のメディアとこういう新書版の違い
普段、日経新聞なんかを読んでいても、新聞の中に載っている重要そうな記事が、この数十年単位の時間軸のなかでどう言う意味があるのかは、我々素人にはわかりにくいと思います。数年前にどういうことがあって、今回の中央銀行の発表がどんな意味があるのかは、マーケットにずっといる様な方でないと、なかなか文脈の中で判断できません。
この本は、現在のアベノミクスがどのような日本の財政の中でやられているのか、それにより日銀のバランスシートがどのような状況になっているかを、豊富なデータやグラフを使用して解説してくれています。
このような長期のコンテクストの中で、日本の財政状況の話が書いてあり、私なんか、早速今後の身の振り方を考えてしまいました。この本を読んだら皆様も真剣に今後の事を考えてしまうと思います。そういう意味でもお勧めの本です。
日銀のバランスシート
新鮮だったのが、日銀のバランスシートの話です。国債の残高が1200兆円を超えているとか、GDP比率が250%に近くなってきている話は、誰でもよく聞きますが、日銀のバランスシートの話は私は知らなかったです。
今、黒田総裁率いる日銀は、世界を仰天させた異次元緩和をやって日銀のバランスシートを膨らませています。リーマンショック後のFEDやPIIGSの国債が売られた時やギリシャ危機の時のECBも、債券や国債を買ってバランスシートを膨らませてきました。
FEDやECBではどのように量的緩和を解除して、積みあがったポジションを平常の状態に戻していくかという事が、議事録にも残してあるように真剣に議論されているようです。
こんな事を教えてくれる事が、こういう専門家の本の価値だと思います
しかし、ここがこういう専門家の本を買うことの価値だなと思うのですが、著者はFEDやECBの議事録を読んで、どのように出口戦略が議論されているか、原文を調べているのです。こういう所はやはり専門家が時間を使って初めてできることで、私たちのように一般人が、自分の仕事を持っている中で自分の時間を使って調べるなんて、とても出来ない訳です。それが、消費税を入れても800円をちょっと超える値段で買えるのですから、本当にお得です。この部分だけでも800円の価値の100倍くらいは軽くあるように思います。
今後何が起こるのか
ひるがえって、日銀の場合は「時期尚早」と言うことで、少なくとも表向きにはしっかりとした言葉では説明されていないそうです。
通常、こう言う量的緩和をやった場合の中央銀行のバランスシートは、GDPの50%とか何百兆円とか言う規模で資産が積みあがっているので、この資産を市場で売却して残高を解消していくと、市場の金利が上昇します。マーケットにあまり影響を与えないように、FEDなんかの場合は、債権を満期までもって、そこで新しい借り換えの債券を買わないようにするなどして、自然減で資金の回収を図ったりするそうですが、その方法や、時間軸・マーケットに与える影響などを真剣に議論して議事録に残しているそうです。通常、拡大したバランスシートの解消には10年くらいの非常に長い時間がかかります。
日銀の場合も、そのようにして積みあがったポジションを解消していく必要があります。
ここで、著者が指摘しているのですが、日銀のポジションはすでに400兆円くらいあるそうです。ポジションを解消していく中で金利が上昇していきますから、日銀には相当の評価損が出ることが予想できると書いていいます。この評価損が問題で、日銀の場合は債務超過になる可能性が書かれています。日銀が債務超過になった場合に、どのような影響があるのかは私にはよくわかりませんが、金融市場に与える影響が甚大になる可能性はあると思います。
国家が債務を返済できなくなった場合に何が起こるか
これについても、ギリシャで起こった緊縮財政や年金の支給年齢が繰り上がったこと、戦後の日本で起きた新円切替や預金封鎖の話が書いてあります。
近い将来に、相当に高い確率で起きる未来に対して、私も自分はどうしたらいいのかと考えてしまいました。きっとこれを読んだ方も皆様も、これから高い確率で来るかも知れない大津波に対して、一体どのようにして自分の生活を防衛したら良いのだろうと考えてしまうと思います。そういう役に立つ情報や刺激も含めて、読書の価値だなと思います。
私が考えたやるべきこと
1)円の現金を減らして、何か違うものに替えておくこと。当局がインフレを通して債務を減らしたいと考えているかどうかは私にはわかりませんが、日銀のバランスシートが将来傷むのは間違いありません。円の名目価値が下がらないと政府の債務は現実的には返せそうに無いですし、そうではない場合には、暴力的な方法で債務を帳消しにするしか方法はなさそうに思います。いずれの経路をたどるにせよ、円をせめて、ドルかユーロなどの違う通貨建ての資産にしておくのは、少しは自己防衛になるのではないかと思います。
2)値下がりのリスクはもちろんありますが、金や原油などの世界で流通する価値のある現物資産を持つのもリスク分散の観点からはいいと思います。これからドルの金利が上がると、金などの現物資産の価格は下がるかも知れませんが、持っている資産のうち少しの割合ならいいのではと思います。どうせ、日本円の価値は下がらざるを得ないのですから。
3)変動金利で借金をして、不動産を買うことは慎重にした方がいいと思います。日銀が国債を買い続けることによって、金利は低いままで抑制されるかもしれませんが、そうであるなら、円の価値が外貨に比べて下落すると思います。円を防衛するためには、日銀は金利を上げなくてはいけなくなりますが、その場合には、政府が借り入れを返せなくなるのと同じように、変動金利で借金をしてしまった、私たちも死んでしまいます。金利があがれば、資産の価値は下落するし、毎月の返済も上昇するからです。
また、あたるかどうかはわかりませんので、適当に聞き流していただけると幸甚です。