ベンダーが開発したサービス(ソフトウェア)を使う場合、その使用料を払います。例えばSalesForceみたいなネット上で動くソフトのようなものも在れば、機械学習のプログラムのようなものもあります。サービスの使用料を海外の販売元に直接支払う場合、これが所得税法や租税条約の使用料にあたるかが、大きな問題となります。
使用料に当たることになれば、日本の所得税法では161条により、非居住者もしくは外国法人に支払場合には20%の源泉所得税が必要とされています。では、これらの料金を非居住者や外国法人に支払う場合に所得税法で規定されている源泉所得税が必要になるのでしょうか?
結論(私の考え)を先に言うと、必要がないと考えています。以下に理由を書きます。
所得税法を見てみると、海外からソフトウェアを購入する際、源泉徴収が必要なのは、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」に該当した時とされています(所得税法第161条7号ロ)。
使用料の内容ですが所得税法施行令284条で以下のように細かく規定されています。
イ 工業所有権その他の技術に関する権利,特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
ハ 機械,装置その他政令で定める用具の使用料
しかし、これだけでは条文からは判断がつきません。そこで実務では、「著作権の使用料又はその譲渡による対価」は、日本の「著作権法」の考え方に従って運用されているようです。
著作権についてみると、著作権は、著作権法 21 条から 27 条までに規定されている複製 権を中心とする支分権の束です。第三者(一般人)がその著作物につき禁止される行為(法 定利用行為)は、複製(21 条)、上演・演奏(22 条)、上映(22 条の 2)、公衆送信(23 条)、 口述(24 条),展示(25 条)、頒布(26 条)、譲渡(26 条の 2)、貸与(26 条の 3)、翻訳・翻案(27 条)に限定されており,それ以外は誰でも自由にその著作物を利用することができます。
ソフトウェアに含まれるプログラムは著作物ですが(著作権法10条1項9号)、それをコンピュータにより正常に作動させて「使用」すること自体は、禁止の対象となる法定利用行為ではなく、何ら著作権を侵害するものではありません。これは著作物である本を購入した人がその本を「読む」行為が禁止されていないのと同様です。
こうしてみると,一般的なソフトウェアの使用許諾契約は、著作権の「ライセンス契約」 ではないといえます。ユーザーは、本来、ソフトウェアの「使用」の方法・態様については、著作権に基づく物権的な効力によっては何ら制限されていないにもかかわらず、著作権者との契約に基づく(国内法における)債権的な効力として一定の制限に服することを約束していることになります。そのため、ユーザーが使用許諾契約に違反しても、債務不履行(契約違反)になるだけで、著作権の侵害にはなりません(物権と債権の違いみたいな物でしょうか)。 したがって使用許諾契約を伴いユーザーが著作権者に支払う対価には、著作権を行使しないことに対する経済的な補償(対価)である「著作権の使用料」は含まれません。
以上のように使用許諾契約を例にとって検討してみましたが、実際に行われるソフトウェアの国際取引はもっと色々ありますからから、実務の際には契約の内容をよく確認することが必要だと思います。