チェックリストという本を読んでいるのですが、とてもよかったです。
著者が医者なので現在の医療の現場の話から始まります。
オーストリアのある田舎の病院に、凍った池に落ちて心肺が停止した3歳の女の子が担ぎ込まれた事例が紹介されています。女の子は両親と散歩をしていたのですが、両親がちょっと目を離した隙に凍った池に落ちてしまい、半狂乱になって探したところ、30分後に凍った池のそこから救出されました。すでに心肺停止も停止して体温も19度まで下がっていました。瞳孔も開いていて光にも反応をしなくなっていたそうです。
それでも連絡を受けた救出チームはヘリコプターで女の子を近くの病院まで搬送しました。病院では女の子を直ちにICUに運び込み、お腹を切って人工血液を体に循環させる機械を取り付け、胸を切って肺には人工呼吸の機械を取り付け、などと数多くの難しいオペを同時進行でやったそうです。
瞳孔が開いて心肺も停止している人間の命を取り止めるは時間との勝負です。この女の子は1時間半心肺停止の状態の後、幸い無事に回復して退院したそうなのですが、このような緊急のオペレーションでは、多くのことを同時進行でやりながら、手順を間違えることは許されず、かつ複雑な知識が要求される、とても難しいものでした。
この病院が女の子の命を取り止めるのに成功した大きな理由の一つは、チェックリストがあったからだそうです。チェックリストがあったので、緊急の時間との勝負の状態でもやるべきことや手順を不足なく適切に処置ができたのでしょう。
アルプス地方にあるその場所柄、それ以前にもこの病院では多くの方が雪崩などで心肺停止になって担ぎ込まれていましたが、それまでは命を取り止めるのには成功していませんでした。そこで病院は何ができるかを考えて、このチェックリストを作ったのだそうです。
この著者の病院でもチェックリストを導入した効果は劇的だったそうです。医療ミスによる年間に何億円もの損失と何人もの命が救われるようになったとのことです。
チェックリストは日頃の業務にも、もっともっと取り入れてもいい。人に仕事をお願いするときの指示やマニュアルの代わりになる。
アメリカでの弁護士保険のケースを調べると、弁護士の場合も、事故のほとんどが単純な期限のミスや書類の提出漏れだったりするそうです。
私たち税務の現場でもそのようなことはよくあります。多いのは適用できる税額控除を忘れていたとか、消費税の届出書の提出を期限までにするのが漏れていたとか、多くのミスは単純ミスです。チェックリストを作って、一見簡単なことばかりでバカバカしく感じるような事を丁寧に一つずつ潰していけば防げるものです。
今でも私たちの事務所で税務申告をする場合には、チェックリストを使って漏れの無いようにしているのですが、他の業務にも、もっともっと取り入れようと思いました。
例えばですが、決算をする段階では、当期の売り上げもわかっていますから、翌々期以降の消費税の申告が簡易課税を適用できるのか、それとも原則課税しか選択できないのかがわかります。簡易課税が選択できるとして、簡易にした方がいいのか、原則課税の方が良いのかも検討できます。決算をやっていますから、取締役の事前確定給与を当期も出すべきかどうかもこの段階でチェックできます。
忙しいと簡単な事を思わずミスしてしまう事がありえますが、このようにチェックリストにしておくと漏れが無いかを確認する事ができます。
チェックリストはマニュアルや指示の代わりに使える
チェックリストは、これとこれをやった、とチェックしていくものですから、上手く作るとマニュアルの役目も果たせます。
人数が増えてくると、上手く指示が出せなくて、現場の担当者が何をして良いのかわからず、途方に暮れてしまう場合があります。恥ずかしながら私の事務所でも、上手く指示を出す事ができず、仕事の塊が大きすぎてどこから手をつけて良いのか分からなくて1-2時間くらい無駄にしてしまうことはザラです。きっとそのような中小零細企業は多いでしょう。
例えば株式会社の設立のような定型業務でありながら、取締役が居住者か非居住者かで手続きに多少のバラエティがあるような場合でも、チェックリストがあると担当にもやりやすくなるように思います。
担当にとって不慣れな仕事だとしても、事務所としてチェックリストを準備しておいて、担当にとってもどのように進めるべきか、思い悩んでフリーズしてしまうことも少なくなると思います。チェックリストは作り方を工夫して時系列的に並べればマニュアルにもなりそうです。そうすれば、言葉でいちいちやる事を指示するより、やる方もチェックリストの通りに進めて、分からない所だけ聞けば良いのですから、やりやすいように思います。
チェックリストはもっと長いスパンの目標にも使えるかも
また、自分の人生にもチェックリスト的なものを取り入れて見ようかと思いました。日々忙しいと日常の業務に流されがちになりますが、週に何キロ走るとか、月に何冊本を読むとか、何時間英語や税務を勉強するとか、人にはこう接したいとか、基本的な方向性を忘れないためにも、毎日の自分の行動を振り返るチェックリストとして使えそうに思いました。